第640号【2023はじまりの春】

 桜前線はいま、青森県の北部あたり。今週末には北海道に上陸するようです。長崎の桜は先月21日に開花。ときおり雨に見舞われながらも無事に満開を迎え4月初めまで花を楽しめました。それにしても今春の長崎は、4月に入るなり連日初夏を思わせる日差し。近郊の山々もめきめきと新緑におおわれました。長崎のあちらこちらで見られるクスノキは、春の落葉を終え、やわらかな若葉が生え揃いました。黄白色の小さな花をつけるクスノキは、例年なら5月初旬に開花して爽やかな甘い香りを漂わせるのですが、それも早まりそうな気配です。









 

 季節が過ごしやすい陽気に包まれていく一方で、進学、就職、異動など、春の別れと出会いに、さみしさや期待が入り混じる複雑な思いを抱えている方も多いのではないでしょうか。そんな気持ちをくすぶらせながら、「寺町通り」を歩いていると、「浄安寺(じょうあんじ)」の掲示板に、『出会いは人を豊かにし、別れは人を深くする』という言葉が掲げてありました。タイムリーなその言葉に励まされて通りを先に進むと、今度は「延命寺(えんめいじ)」の掲示板に、『諸行無常』の文字が。さすが、お寺さんは心得ているもの。足取りが軽くなりました。





 

 主に江戸時代初期に建立されたお寺が複数建ち並ぶ「寺町通り」。そのひとつ「浄安寺」は寛永元年(1624)創建の浄土宗のお寺です。「延命寺」は、元和2年(1616)創建。山門の門扉は、長崎奉行所立山役所のものが移設されています。山門をくぐると、ふくよかな表情の健康観音像が迎えてくれますよ。





 

 「延命寺」のお隣は、「長照寺」です。手入れの行き届いた庭園のような境内では、古い桜の木がまだ花をとどめていました。桜の終わり頃に咲きはじめる牡丹や藤は開花してすっかり見頃。梅の木は実もたわわでした。そんな「長照寺」の境内を、数人の外国人観光客も楽しんでいました。彼らは、小声で言葉を交わしながら桜を静かに眺めていました。実は、こうした外国人観光客の姿を先月中旬から長崎のまちでよく見かけます。ちょうどその頃から長崎港に国際クルーズ船が相次いで入港しているので、おそらく、数時間の長崎観光を楽しむクルーズ船の乗客なのでしょう。





 

 早朝入港したクルーズ船は、夕方には次の寄港地に向かいます。この日、入港していたのは「ダイヤモンド・プリンセス」(船籍:英国)。全長約290メートルの大型船です。この船を港ごと写真におさめようと南山手の高台へ向かう途中で、県外から観光にいらしたという70代のご夫婦にグラバー園への道を尋ねられました。長崎には若い頃に一度だけ来たことがあるとか。「若い時はずいぶん歩き回ったけれど、いまは、さすがに坂はきつい」と苦笑いされるご主人。らくに高台のグラバー園第2ゲートに行ける斜行エレベータ「グラバースカイロード」をご案内しました。





 

 国内外を問わず、多く観光客の方々がコロナ禍を経験したことで、自由に人と会ったり、旅をしたりすることの喜びをこれまで以上に感じているよう。行き交う観光客のやさしいまなざしに長崎観光の新時代のはじまりが見えるようでした。

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