第641号【新緑の季節の長崎めぐり】

 新緑の季節、どんな連休をお過ごしになられましたか。長崎は期間の後半はあいにくの雨となりましたが、観光スポットはどこもコロナ禍前を思わせる人出で賑わったようです。54日には長崎港に4年ぶりに、客船「クイーン エリザベス」(全長294m、約99,000トン)が寄港。シックで優雅な巨大船体を一目見ようと多くの人々が港周辺に集いました。




 

 連休中の雨は、「走り梅雨」を思わせるような降り具合でした。「走り梅雨」は、例年なら5月中旬から下旬にかけて見られる空模様。近頃は、季節のめぐりが前後することもよくあるので、つい先走ったことが頭をよぎります。実際、長崎くんちの小屋入り(61日)の頃に咲く諏訪神社(長崎市上西山町)のザクロの木が、すでに橙色の花を咲かせました。そうなると、梅雨入りも早まるのでは?と気になるところです。




 

 諏訪神社からほど近い長崎歴史文化博物館(長崎市立山)へ行くと、「長崎式のこいのぼり」が今年も広場に飾られていました。江戸時代から伝わるという「長崎式のこいのぼり」は、杉の木の先端を残した支柱に、複数のこいのぼりを下げた笹の旗竿を斜めにゆわえてあります。こうすると、こいのぼりは風がなくても絡みにくく、風が吹けば旗竿が動いて、のびのびと空中を泳ぐのです。長崎式の旗竿には、「鍾馗(しょうき)」の絵も欠かせません。「鍾馗」は、中国の伝説で疫病を防ぐ神さま。日本では、その絵は魔除けや学業成就に効くとして、端午の節句のさまざまな飾りに用いられてきました。昔も今も、子どもたちの健やかな成長を願う気持ちに変わりはありません。

 

 江戸時代中期に築かれた庭園が残る「中の茶屋」(長崎市中小島)へも足を運びました。「中の茶屋」は、江戸時代の長崎の花街・丸山を代表する茶屋のひとつだったところ。当時、多くの文人墨客が訪れたと伝えられ、長崎奉行も市中巡検の際に休憩所として利用したそうです。「中の茶屋」の門扉をくぐると、掃除の行き届いた敷石の通路が奥の木造家屋へと誘います。老松など庭の樹木はほどよく整えられ、心地いい静けさが漂っていました。



 

 日本の庭園の歴史をひもとくと、江戸時代は、池をつくり周りに樹木や石灯籠などを配して、歩き巡りながら庭の景色を楽しむ回遊式の庭園が多く造られたそう。「中の茶屋」の庭園も規模は小さいですが回遊式。池のまわりに施された狭い通路をめぐりながら景色を楽しみます。庭園には、稲荷のほこらや鳥居、そして丸山の遊女が献納したと伝えられる石の手水鉢があり、「中の茶屋」の歴史が垣間見えます。




 

 「中の茶屋」の建物は、茶室を擁した木造家屋の2階建て(昭和46年に火災で焼失後、新築復元されたもの)です。広縁や座敷などから古き良き和の風情が感じられます。ここは現在、長崎市出身の漫画家・清水昆さん(19121974)の展示館として利用され、昭和の時代に愛された「かっぱ川太郎」や「かっぱ天国」などの原画が展示されています。「かっぱ川太郎」の無邪気さや家族とのふれあいは、遠くなりつつある昭和の人情味にあふれ、ほっこりします。昭和好きの方にはおすすめのスポットです。余談ですが、清水昆さんゆかりのかっぱの銅像「ぼんたくん」が、中島川沿いにも設置されています。かわいいですよ。



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