第668号【記憶と記録に残る2025年夏】
線状降水帯の発生で大雨の被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。一日も早くふだんの暮らしにもどれることをお祈りいたします。
晴天の日が多かった7月は、全国的に30℃越えの気温が続きました。8月に入り、40℃に達したところが各地で相次ぐなか、8月5日には群馬県伊勢崎で41.6℃を記録、国内観測史上最高気温が更新されました。全国高校野球選手権大会では暑さ対策のために、史上初のナイター開幕戦に。今年の暑さは多方面で記録にも記憶にも残る夏になりそうです。
長崎県でも先月からの晴天が続いていましたが、立秋(8/7)の頃から天気がぐずつきはじめました。そして、あちらこちらで被害をもたらす激しい大雨に。天気の変化はめまぐるしく、今週後半からは、ふたたび晴れ間が広がり猛烈な暑さがやってくるという予報。引き続き、暑さや台風・大雨時の対策を万全にしておきたいものです。
さて、今週はお盆休みなどで、久しぶりにふるさとに帰省している方もいらっしゃることでしょう。懐かしい顔ぶれが揃うとき、昭和の時代の長崎では、皿うどんや煮しめ料理などを大皿で出して、もてなすのが定番でした。いまでは、食生活の環境が大きく変わり、外食の機会も増えていますが、集いのテーブルには、皿うどんが欠かせないという方は、変わりなく多いようです。
お盆の時期になると、祖母世代の方が、「盆団子(ぼんだんご)」を作るというご家庭がありました。80代後半の女性の話によると、「昔は、うるち米ともち米を洗って干した後、石臼で挽いて粉を準備してから団子を作っていた」とのこと。このような米粉で作るまんじゅうは、地域によっては、「けいらんまんじゅう」とも呼ばれ、かつて農村などでは、春から夏にかけて、折にふれ作られていたそうです。中に包む「あん」も小豆だけでなく、そらまめを甘く煮たものもありました。
猛暑の季節の食のエピソードで思い出すのは、「ジャガイモの団子汁」にまつわる故・越中哲也先生(長崎の郷土史家)のお話です。「子どもの頃、夏場にジャガイモの団子汁が出されることがありましてね。正座をして、汗をいっぱいかきながら熱いお汁をいただかなければならず、子ども心に、これは苦行だと思ったんです」と苦笑しながら語っておられました。しつけが厳しいお母様の目があったので、一生懸命食べたそうです。ちなみに、越中先生の「ジャガイモの団子汁」には、「えびざっこ」と呼ばれた茂木産の芝えびと、きゅうりも入っていたようです。
夏場の汁物といえば、「冬瓜(とうがん)」のお汁(つゆ)がおすすめです。ウリ科の野菜である冬瓜は、夏野菜ですが、冬まで保存が効くことからその名がついたとか。ラグビーボールを思わせる姿形ですが、地元では、4分の1くらいにカットされて店頭に並ぶことが多いです。主な栄養素はビタミンCとカリウム。すぐれた利尿作用があり、体にこもった熱を冷ましてくれます。鶏肉のあっさりとした出汁でほどよく煮えた冬瓜は、とろりとした舌触り。冷めてもおいしいです。
ようやく雨が止み、中島川沿いへ散歩に出ると、アオサギの幼鳥がいました。アオサギの卵は5月初旬に孵化するそうで、それから2年くらいかけて成鳥になるとか。細い体で、浅瀬に立っていた幼いアオサギは、成鳥と同じようにじっと構えて川魚の動きに狙いを定めていました。
季節の食を楽しみ、いつものように散歩に出る。そんな日々の平穏な光景から視野を広げて世界の情勢を見ると、いまも戦争や紛争に翻弄される人々が大勢います。この現実に、『平穏な日常は、奇跡なのだ』という言葉が胸に迫ります。戦後80年目を迎えた夏。あなたは、どんなことに思いをめぐらせましたか。