第665号【ながさきの風薫る五月】
緑の上を渡る風が心地よい季節です。畑の片隅に植えたユズやレモンが、小ぶりの白い花を咲かせています。その香りは控えめながら甘くさわやか。風に溶け込んで辺りに香りを届けていました。初夏めく日差しに誘われて中島川の眼鏡橋まで散策に出ると、観光客の姿はまばら。ゴールデンウィークの賑わいもひと段落ついたようです。 すがすがしい青空が気持ちいいこの時期。見上げれば、めずらしい出来事に遭遇するかもしれません。ゴールデンウィークがはじまったばかりの日曜日。「環水平(かんすいへい)アーク」という現象が南の空に出現していました。 「環水平アーク」とは、空に虹色の光のラインが見える現象です。春から夏(3〜9月)にかけて、太陽が高い位置にある昼前後に出現しやすいと言われています。発生メカニズムは、太陽光が雲の中に含まれる「氷の粒」に当たり、屈折することで起きます。太陽の下の方に水平なラインで出現するので、目撃しやすいです。雨上がりにアーチを描いて現れる「虹」ではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、発生メカニズムが違うので区別されます。 また、「環水平アーク」は、雲の一部が虹色に色づいて見える「彩雲(さいうん)」と、見間違えられることがあります。「彩雲」は、太陽周辺の雲に起こる現象なので、別物になります。この日、長崎で見られた「環水平アーク」は、市内のあちらこちらから確認できました。よほど条件が揃っていたのか、1時間ぐらいは消えずに青空を彩っていました。 5月は、自然界が旺盛な生命力を発揮する季節。山の豊かな緑が目を引きますね。長崎の市街地を囲む玉園山(立山)や風頭山、そして稲佐山なども輝くような緑に覆われています。その山々をじっくり見渡すと、クスノキが多いことが分かります。この時期のクスノキは、若葉をたっぷり茂らせ、小さな花を多くつけます。遠目には、明るい黄緑色で、こんもりとした形をしているので、見分けがつきやすいのです。 居留地時代、諏訪神社のある玉園山(立山)に大きなクスノキが数十本も見られたことから、訪れた外国人らが「Mount of Camphor」(クスノキの山)と称えたというエピソードが伝えられています。 関東以西に分布するクスノキは、九州ではよく見かける樹木のひとつです。長崎では、公園などのシンボルツリーや街路樹としてもよく見かけます。また、寺社の御神木となっていることも多いです。樹齢を重ねた幹は、雄大な姿を見せます。長崎県内には、樹齢数百年という大きなクスノキが数多く見られます。県内でもっとも大きいクスノキとされる「大徳寺のクスノキ」(長崎市西小島)は推定樹齢800年です。 クスノキは、葉や材から防虫、除臭、医療品として使われる樟脳がとれることが知られています。18世紀のオランダとの貿易で、日本は出島から銀や銅とともに、樟脳も輸出しています。深掘りすればいろいろ出てくる長崎がらみのクスノキの話。また、いつかご紹介したいと思います。 ◎参考にした本:『長崎県の巨樹・名木』(長崎県樹木医会)、『長崎植物の歴史』(松林文作)
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